英語と日本語とでは文法体系が大きく異なります。それが英語学習のハードルを上げ、「英語が苦手!」という多くの英語嫌いを生み出している一因でもあります。
しかし、英語を勉強していると英語の知識が増えるだけでなく、あらためて日本語の奥深さに気づくことも多々あります。
ここでは、そんな英語と日本語の違いに少し触れていきましょう。
川端康成「雪国」
日本語は主語がなくても成立しますが、英語は原則として主語が必要な言語です。よく例として挙げられるのが、川端康成の「雪国」の最初の一文です。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」
暗闇の中を進み続け、ようやくトンネルを抜けると目の前に白い銀世界が広がっていた。そんな風景が頭に浮かぶ、想像力を刺激してくれる文章です。ところでこの文章、主語がありません。アメリカの日本文学研究家家エドワード・サイデンステッカー(1921~2007)は、以下のように英訳しました。
The train came out of the long tunnel into the snow country.
原文の日本語には主語がないため、「列車」が主語に加えられました。
日本語ではあえて主語を書かないことによって、読者自身が情景をイメージするような構造になっていますが、英語ではそうはいきません。英語のコアは主語(S)と動詞(V)です。「何が」「どうする」のSV文型が前提です。そこは読者が考えるのではなく、書き手がしっかりと説明する必要があるのです。
ただ「晴れてるよ」の一言すら主語が必要
遠く離れた友達に電話して、「そっちの天気はどう?」と質問。すると「晴れてるよ」と返答がありました。これを英語で言うと、
It’s sunny (today).
となります。ただ一言「晴れてるよ」ですらわざわざ it という主語を持ってきます。日本語の感覚でいうと“Today is sunny.”でいいじゃん、とか思っちゃいますがダメです。時を表す言葉は原則として文末にもってきます。
主語を必要とする英語の特性。慣れないと正直メンドくさいですが、感覚をつかんでしまえば何かを明確に説明する時などは日本語よりも使いやすい言語になります。
単数か複数か、それが問題だ
七夕や 犬も見あぐる 天の川
これは正岡子規の句で、犬も見上げてビックリするほどの美しい天の川が夜空に広がっている様を詠んだものです。夜空を見上げる可愛らしい犬の姿が想像できますね。さてこの時、何匹の犬が浮かびましたか?1匹?2匹?もっと多くの犬?
正解はありません。この句には何匹かまでは触れられていないからです。そこは読み手次第です。この曖昧さが日本語の面白さでもあります。
もしこれが英語だったらどうでしょうか?俳人が意図せずともa dog もしくはdogsと、1匹か2匹以上かをハッキリさせねばなりません。そこには想像力が入り込むスキはないのです。
英語は語順が全て
英語は配置の言葉と言われています。なぜなら語順がバラバラになると何を言っているかわからなくなるからです。日本語だと語順がバラバラになっても意味は通じます。
以下の文を見てください。
Iku named the dog Mametaro.
イクは その犬を マメタロウと 名付けた。
それでは語順をシャッフルしてみましょう。
Named the dog Iku Mametaro.
名付けた その犬を イクは マメタロウと。
日本語は少し違和感を感じますが言いたい事はわかります。しかし英語だとさっぱりわかりません。
日本語には「は・に・を」などのような助詞があるため、単語の役割を教えてくれます。英語にはこの助詞が存在しません。そのため英語では単語が置かれた場所で役割が決定します。この言葉を正しく配置するルールこそが、いわゆる英文法です。
おわりに
こうしてみると、英語と日本語は本当にルールが異なる言語ですね。少し曖昧でも通じてしまう日本語は、言葉にしなくても空気を読む力が必要とされる日本社会を象徴しています。対して英語は「言わなくてもわかるでしょ?」は通用せず、明確に言語化して主張しなければならない欧米文化そのものです。この違いを知っておくだけでも、英語を勉強する時の理解度は違ってくるでしょう。