“There is more to life than increasing its speed.”
Mahatma Gandhi
人生には、速度を上げること以外にも大切なことがある。
マハトマ・ガンジー
【文法解説】
中学で習うthere is 構文の名言。
more A than B:BよりもA、BのほかにA
more thanを使った「比較級」です。
increase: 増やす、拡大する
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かつては手作業だった農業は、技術の進歩とともに農機具も発達しました。散水機やコンバインなどにより、劇的に効率と収穫量が飛躍。多くの人が飢えることなく農産物を口にできるようになりました。情報技術も同様です。伝令や伝書鳩に頼っていた時代に比べ、電報や電話、インターネットを使い、いつでも世界の誰とでもコミュニケーションがとれるようになりました。このように現代社会では、昔とは比べものにならないほど圧倒的に便利なツールがあふれています。
しかしながら、豊かな社会になったとは到底いえません。パソコンやスマホ一台でできる事が増えた数と同じくらいに、期日までにやらなければならないことも増えました。時間に追い立てられる、スピード重視の社会になったのです。あれもしなきゃこれもしなきゃと常に何かに追い立てられ、立ち止まって考える時間もありません。物質的には豊かになったけど、精神的には疲弊した社会が出来上がりました。
スピードには中毒性がある
国際ジャーナリストの堤未果氏の著書で印象に残ったエピソードがありました。ニューヨークで生活していた堤氏でしたが、9・11をきっかけに心身に不調をきたし、帰国した時の話です。以下は「堤未果のショック・ドクトリン」(p28~31)からの引用です。
いくら食べても痩せていき、塞ぎ込む私を心配した母が、荒業で有名な山で修業を終えたというお坊さんのところに連れていってくれたのでした。
その人は気の抜けた私を見て、言いました。
「心が動かなくなっているのは、情報が入りすぎているからです」
そして、聞いたことのない不思議な修行、「人断ち」を勧められたのです。
それは、一定期間、徹底的に外部とのコミュニケーションを断つというものでした。人と会うだけでなく、電話もファックスもメールもダメ、もちろんパソコンを開くのも禁止です。
~中略~
最初のうち、しょっちゅう頭に浮かんできたのはニューヨークでの生活です。何もかもが高速で進むウォール街。24時間、情報が飛び交い、出遅れたら負けという過酷な世界。仕事も会話もすべてがスマートで無駄がない。スピードには中毒性があると知ったのは、帰国後、私の身体にもそれがすっかり染みついていたことに気づいたときでした。
~中略~
10日ほど過ぎた頃から、少しづつ変化が起こり始めました。
「体感」が戻ってきたのです。
自分の手の温もり、立ったときに足の下にある地面、さらさらと風にそよぐ葉の音に、鳥たちのさえずりに虫の羽音、木漏れ日のきらめきや、朝と夜の空気の密度と匂い、道端のたんぽぽの鮮やかな黄色…。まるで、今まで一時停止していた五感が、再び動き出しフル稼働し始めたかのようでした。
堤氏はこの経験を「五感を再起動したら、自分自身を取り戻せた」と表現しています。もちろんこの荒業は誰もができるわけではありませんが、我々も知らず知らずのうちにスピーディな毎日と情報過多な状態に、良くも悪くも慣れてしまっていることは自覚しておいたほうがよいでしょう。自分の脳に得た情報が多いと賢くなった気になりますが、そのぶん何かを失っているかもしれません。
生きていくうえで時代の流れについていくことは大切です。しかし、時代に合わせる事そのものが生きる目的になってしまっては自分を見失ってしまいます。時には立ち止まって、「速度を上げること以外」の大切なことに想いをはせてみましょう。